Shortshort ショートショート written by たそがれイリー


『勝算』

「本当に出ないんですか?」
「まあ、この状況下では、私は自分から動くことをためらうね」
「それでも、本当に出ないんですか?」
「勝算があれば出るさ。100%の勝算があれば、の話だが」
「やっぱり、本当に出ないんですか?」
「君もしつこいな。いいかい、マスコミがああだこうだいってるが、すべてはずれだ。要するに私の政治生命の維持、強いて言えば権力ピラミッドの頂点に私が存在できるかどうか、それだけなんだよ」
「それでも先生、本当に出ないんですか?」
「くどい!」

「ご心配差し上げてるんですよ。起訴されても無罪って証拠が100%出るのか。代表選の話じゃないですよ」


『ゲリラ豪雨』

「今年の夏はゲリラ豪雨に悩まされたもんだが」
「まさか、今年の冬までゲリラ豪雪に見舞われてしまうなんて」
「それだけじゃねえべ、俺んちはゲリラ集金にあって銭さ持って行かれただ」
「なんだその、”ゲリラ集金”ってのは」
「なぁに、夕暮れ時に野良仕事から帰ってきてるのを、家の明かりで見つけた農協や銀行の奴等が、今までの借銭の貸しを取り立てに来るのさ」
「それもあいつもこいつも来るから”ゲリラ集金”ってわけか。なんだか話だけ聞いてるとおもしろいべ」
「笑い事じゃなか、今年の冬が困難じゃあ、家も田畑も荒れてしまって、来年農家をやってる自信がねぇ。おまけに明日の食事にも事欠くようになってしまうだ。もうお先真っ暗だ」
「それはおらんちも一緒だ。そうだおめえ、一緒に手をくまねえか」
「手を組む? お前と何をしたらこの貧困から逃れられるってんだ」
「これだよ。お前もおらも、こいつが最後の頼りだ」
「何だ猟銃か。ウサギや狸を食って生きながらえろって言うのか」

「惜しいな。おらとおめぇで都会から来た観光客を襲うんだ。ゲリラって言う奴になればいいんだべ」


『経済』

「なぁ、俺はよく経済のことがわからないんで、昔から賢いお前に聞きたいんだが」
「なんだ? いきなり経済だなんて」
「いやな、なんで円高じゃあだめで、円安じゃあだめなんだ?」
「うーん、まあいい。他に疑問はないのか?」
「あると言えば、なんで株価が下がったら景気が下がったってみんなが嘆くのかわかんねぇ」
「そうか。で、お前はどう思うんだ?」
「いやあ、いろいろ聞いたり新聞を読んでみたんだが、さっぱりわかんねぇんだ」

「それが正解だ。わかんねぇ方が銭を奪われないですむからな。一生庶民でいた方が幸せだ」


『常識』

「ちょっと待ってください。理由を教えてください」
「それはご自身が一番ご存知ではないのですか」
「それがわからないからお聞きしてるんです。どうして私たちがこのホテルを利用できないんですか」
「ですから、先ほど申し上げたように、他のお客様の迷惑になってしまうからです」
「その理由をお聞きしてるのに、そんな答えじゃ納得できません! もういいです、他をあたります」
「残念ながら、他もすべて同じ答えになると思いますが」
「そんな・・・この温泉街は、いったいどうなってるんですか!」

「日本全国同じですよ。あなた方が泊まると誰かが死ぬって評判でね・・・そうだよね、江戸川コナンくん」


『圧縮』

「部長、この前のCD、圧縮をしておきました」
「悪かったね、忙しいのに」
「どうぞこちらです。ご確認を」
「・・・なんだ、これ」
「これって、依頼されたCD、圧縮してあるやつですが」

「何を言ってるんだ、圧縮したらシングルCDのサイズになるんじゃないのか?」


『薬』

「ゴホン、ゴホン・・・おじゃまするよ」
「いらっしゃいませ。お薬をお探しですか?」
「ああ、たんせきで困っているので、効く薬がないかと」
「それではこちらをどうぞ」
「何だねこの薬は、私を馬鹿にしてるのかね」
「ですがお客様、胆石の薬とおっしゃったので」

「そうだよ。私は痰と咳の薬を探しているんだ。同じ事を何度も言わせるんじゃないよ」


『秋刀魚』

「ってわけで兄貴、大成功ですぜ」
「お前がどうしても言うからこの冷凍車を用意してきたんだが、いったい俺たちは何を盗んだんだ?」
「兄貴、今年のサンマが値上がりしてるって話を知ってますかい?」
「サンマが? 何でサンマがそんなに値上がりするんだ」
「この猛暑で、海水温の変化があって、本来取れる場所でサンマが取れなくなったんです」
「で、今回の盗みといったいどういう関係があるんだ?」
「今日盗んだのはイワシなんでさぁ。サンマが高いんで、イワシを変わりにしようってブームでね。だから値上がりし続けるイワシを盗んだんでさぁ」
「なるほど、お前らしいといえばお前らしいんだが、さっきから1つだけ気になるんだが」
「どうしたんです兄貴、ちゃんと現場に証拠は残さずに来たじゃないですか」

「さっきからイワシ、イワシと言っているが、俺の家ではこの魚を”カツオ”と呼んでいたんだ。どっちが本当なんだ?」


『生きていた高齢者』

「市長、我が市には該当者がいませんでした」
「そうか。重ねて聞くが、本当に念入りに洗い出したのか?」
「はい。バッシングに合わぬよう慎重に調査しました。それがこの結果です」
「なるほど・・・我が市のなかで、行方不明の老人は・・・1名?」
「その方だけはどうにもならないのです」
「何を言ってるんだ、君は確かに該当者がいないと言ったじゃないか」
「ですが、その方は例外です。それに、居場所はちゃんと把握できる方です」
「じゃあ、その人物のデータをここに出してくれ。君の言うことを信じられる資料を」

「こちらです。デーモン小暮さんと言うお名前でお元気に活躍されています。御年10万歳を越えてもですよ!」


『署名』

「どうした。早く書くんだ」
「書けません」
「この書類をすべて書かないと、お前はこの国で異端者として扱われるぞ」
「でも、私には無理です」
「将軍様の人民として当然の義務なのだ。私たちはお前を締め上げてでもその書類を書かせるぞ」
「なんと言われても、無理なものは無理です」
「頼むよ、こっちもノルマがあるんだから。君が書いてくれないと、回収率達成できなくてさ、僕らも君と一緒に収容所送りになるんだよ。だから悪いことは言わない、早くその書類を書いてくれ」

「年齢サバ読んでるのがばれちゃうじゃないですか。6つもサバ読んでたのに!」


『挙党体制』

「総理、総理が今後も引き続き総理をお勤めになるのとして、何か変わりますか?」
「変わることなどありません。みなで協力して一致団結し、国のために職務を全うします」
「と、総理はおっしゃっています。前幹事長、同じ質問をさせていただきますが」
「私も、変わることはありません」
「と言うことは、やはり挙党体制を視野においておられると」

「少し違いますね。私が変わらないのであって、周りは私に従って変わってもらうと言うのが本位です」


『救出作業』

「先の見えない作業だな」
「でも、この先には助けを待っている人たちがいるんだ。慎重に、そして迅速に作業を行わないと」
「おいおい、慎重と迅速がどうやったらつりあうんだ。絶対無理だろう」
「無理かどうかは、俺たちの努力にかかってるんだ」
「努力とか根性論でどうにでもなる話じゃないだろう。そもそもお前は理想論ばかり言って、現実の事なんかまるっきり考えてないじゃないか」
「そんなことはないさ、君だっていつもイライラして、慎重さに欠けるって前から思ってたんだ」
「なんだと?」
「決着をつけるなら、望むところだ」

 こうして政権与党内の混乱は収まることなく、日本国民はデフレにあえぎながら苦渋に耐える羽目になったのだ。


『国の方針』

「困ります」
「困ると言われても、国の方針だから仕方がない。君も宮仕えならわかるだろう」
「わかりたくないのが本音です」
「そんな子どもみたいなことを言うんじゃない」
「と言われても、私の今までを全否定されるようなものじゃないですか」
「そうじゃない。世の中が変われば我々も変わる。宮仕えはそういうものだ」
「ですが、私は納得できません」
「君はそういうが、私はそもそも君の仕事のやり方、それを肯定しているわけじゃない。それだけはわかっておきなさい」
「たいそうな言い方ですな。私のやり方は間違ってないですよ。過去の実績を見てもわかるでしょう」

「仕方ないだろう、インフレで硬貨が廃止になったんだから! そんなに投げたければ、札束を投げればいいじゃないか、銭形くん!」


『離婚届』

「これをお願いします」
「離婚届・・・ですか」
「当事者の印鑑は既にそろっています。急いでいますので、早く処理をお願いします」
「あの・・・すみませんが」
「なんでしょうか?」
「本当にこれで、いいんでしょうか」
「あなたにお話しすることはありません」
「人生にかかわることなんですよ。それに、子どもさんのこともありますし」
「ですから、あなたにお話しすることは何もありません」
「市役所の人間の独り言と思ってください。私もこうしていつも離婚届を受理ばかりしていますが、今回ばかりはこういう独り言を言いたくなりましてね」

「いいかげんにしてよ! あなたとは、早く縁が切れて、せいせいしたいのよ!」


『スピード違反』

「スピード違反だ。免許を見せなさい」
「そんなもの持ってないよ」
「なんて大胆なガキだ! それに、これは改造されているじゃないか」
「だって、作ってくれたんだもん」
「作ってくれたなんかどうでもいい! とにかく、お前がやったことはスピード違反と無免許運転、それに危険運転と交通往来危険違反だ!」
「だって、だって」
「だってもへったくれもない! とりあえず名前を言いなさい、名前を!」

「江戸川コナン」
「そうか。とりあえず、おうちの人が来るまで、この改造スケボーは、預かっておくからな!」


『3Dテレビ』

「おまえ、ついに3Dテレビを買ったんだってな」
「念願のアイテムさ。これで僕の欲望を満たすことができる」
「お前の欲望ってのは、3Dテレビでアダルトビデオを見ることか」
「男ならそういう欲望は誰だってあるだろう。まあ、とりあえず今晩はこけらおとしさ。また君を誘うよ」

「おい、どうだった」
「・・・」
「念願はどうだったんだよ、なぁ、おい!」
「何もかも3Dになっててさ、男優と比較したら、自信が無くなっちゃったよ、俺」


『スーパー抗生物質』

「これがそうなのか」
「そうです。博士が偶然培養されていた菌の中から発見されたものです」
「これが、あのスーパー耐性菌をも死滅させることができる、スーパー抗生物質と言うのか」
「そうです。ですから博士、一刻も早く世界に発表しましょう」
「いやまて、急いては事を仕損じる」
「とは言われますが、長年の博士の苦労が報われるんですよ。まずは発表しましょう」
「こんな貧乏科学者に付き合ってくれた助手の言うことは、理解しているつもりだ。しかし、1つだけ確認させて欲しい、ほれ」
「わっ! 何をするんですか! スーパー抗生物質を私にかけてどうするんですか・・・うっ、うっ、うー!」

「やっぱりそうか。こいつはあらゆる生命体を死滅させるんだな。発表しなくて良かったよ・・・う、ううううっっ・・・」


『応酬』

「大統領、北からふざけた書簡が来ました」
「何々、あんまり経済制裁ばかり続けると、核実験だけじゃすまないぞ、だと!」
「おまけに表題が『韓国に勧告』です」
「変な余裕かましやがって。ちくしょう、こっちも書簡を出すぞ」

「同士、韓国から書簡が来ました」
「そうか、そろそろ米か外貨でもくれる気になったのか」
「そうではありません、そんなに言うなら核実験でも何でもしてみろ、と書いてあります」
「なんだと! 北朝鮮に来た、挑戦か!」


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